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福岡高等裁判所 昭和56年(ネ)426号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

賃貸人X(一審原告)は賃借人Y(一審被告)に対し、本件店舗の賃貸借契約は正当事由に基づく解約申入れにより昭和五二年一二月一八日限り終了したとして、右店舗の明渡しを訴求した。Yは右店舗で喫茶店「オレンジ」を経営していたが、右訴訟係属後の昭和五四年九月頃店舗入口の飾りテントが何者かにより取り去られ、その跡にXが「家主に無断で修理することを禁ずる」旨の掲示板を取り付けたため、客足が激減し遂に同年一一月一日から閉店休業のやむなきに至つた。そこでYからXに対し、反訴として、右不法行為(営業妨害)による営業上の得べかりし利益の損害賠償を請求したが、第一審判決は、本件店舗賃貸借契約は昭和五二年一二月一八日限り終了し、爾後Yには右店舗の使用権限がないことを理由に、右反訴請求を全部排斥した。

【判旨】

昭和五三年七月ころから始まつた「オレンジ」店舗天井からの漏水のため、同年一二月ころから一部客席を閉鎖せざるを得ず、客足も次第に遠のく傾向にあつたものの、一審被告としては、依然として本件建物部分(店舗)の賃借権を有するものと確信し、極力営業の継続に努めていたが、一審原告が昭和五四年九月ころ店舗の入口に前記掲示板を取り付けたころから客足が激減してしまい、これに対して裁判所の仮処分による救済を求めることも考えてみたものの、店舗内閉鎖部分への漏水はやまず、他の部分の汚損も目立つてきていたし、将来も一審原告のいやがらせが予想されたので、遂に営業の継続を断念し、同年一一月一日から営業用備品を残置したまま閉店するに至つたこと、その後右掲示板は一審原告の手によつて取りはずされたが、以上のような経緯よりして、一審被告による右営業の再開は店舗改装費用等の面で事実上不可能な状況にあることが認められ、右事実によれば、一審被告が右営業の継続を断念せざるをえなくなつたのは、直接的には、一審原告の前記掲示板取付行為により営業を妨害されたためであるといわなければならない。そして、およそ、喫茶店の入口に前記の如き掲示板を取り付ければ、客が気味悪がつて寄りつかなくなることは自明の理であるから、一審原告としては、右掲示板の取付により、一審被告の営業が著しく妨害され、遂には閉店に追い込まれるに至ることを十分に予測し得たと認めるべきである。もつとも、本件建物部分の賃貸借契約が昭和五二年一二月一八日の経過により終了したことは前記認定のとおりであるから、一審被告は、爾後一審原告に対し本件建物部分を明け渡すべき義務を負担し、同所において右営業を継続する法律上の権限を有しなかつたものではあるが、だからといつて、右明渡義務が公権的に確定されない段階において、一審原告が右の如き一方的行為によつて一審被告の営業を妨害することが許される道理はなく、一審原告の右妨害行為は一審被告に対する不法行為であるといわざるを得ない。そして、本件の如く、賃貸借契約の解約の成否が正当事由の有無という微妙な判断にかかつている事案においては、一審被告が確定判決等公権的な判断により右建物部分の明渡を命ぜられる時期まで従前どおりの営業を継続することは、いまだ公序良俗ないし社会の倫理観念に反する不法な行為であるとはいい難く、その間における営業利益は法的保護に値すると解するのが相当であるから、一審原告は、右不法行為者として、一審被告が前記休業により失つた営業利益を賠償すべき義務があるといわなければならない。

そこで、右営業利益についてみるに、<証拠>によれば、前記営業による一審被告の年間純利益は、昭和五〇年度が一〇五万一二五〇円、昭和五一年度が一二〇万〇一〇一円であつたこと、右利益の算出にあたり控除した経費の中には、年額一三二万円の本件賃料及び約五二万円の減価償却費が含まれているが、そのうち減価償却については昭和五四年ころまでに大部分の物件が償却済になるものとされていたことが認められるので、昭和五二年以後における物価の上昇傾向に、昭和五三年一二月ころ前記認定の範囲の客席を閉鎖した事実等を勘案すれば、一審被告の昭和五四年一一月一日以降における休業損害は、休業中も支出を免れない前記賃料相当損害金年額一五六万円を含め、当分の間一ケ年二五〇万円程度と認めるのが相当である。

ところで、一審被告は、一審原告により前記掲示板を取り付けられて営業を妨害されたため、それざ直接の原因となつて、「オレンジ」の閉店を余儀なくされたものと認めるべきではあるが、一審被告が仮処分等裁判上の手段により右妨害の排除を求めることなく、比較的簡単に閉店に踏み切つた事実に照らすと、当時、一審被告としては、前記店舗天井からの漏水、店内汚損及び客足の減少傾向等により、漸次営業継続の意欲を失いつつあり、したがつて、一審原告による右妨害行為がなくても、近い将来経営不振のため閉店の事態に立ち至ることが予想される状況にあつたと推認せざるを得ない。かかる諸事情を彼此勘案すれば、一審原告の前記不法行為によつて一審被告の被つた休業損害は、昭和五四年一一月一日から二ケ年分の五〇〇万円をもつて相当と認める。

(美山和義 谷水央 江口寛志)

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